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2021-04

H・ベルネーム著『暗示とその治療効果』への訳者序文

H・ベルネーム著『暗示とその治療効果』への訳者序文(渡邉俊之 訳 2009)
Vorrede des Übersetzers zu H. Bernheim, Die Suggestion und ihre Heilwirkung, 1888  フロイトがフランス語の原書からドイツ語に翻訳した著作への訳者序文であるが、催眠と暗示についての独立した主張をなしており、論文といってもいい内容である。
 催眠術とその主要な対象疾患であったヒステリーについての考え方において、当時は大きく3つの陣営があったようだ。ひとつは催眠術に懐疑的なグループであり、フロイトの師でもあったマイネルトも「催眠術の問題には依然として『ばかばかしさという後光』がついて回る」と述べていたという。
 催眠を支持する者も二つの陣営に分かれていて、ひとつはベルネームを代表とし、催眠に関する現象はすべて暗示によって生じると主張している。もう一方の、シャルコーらのグループの考え方では、催眠状態は身体物理現象であり生理学的現象でもあるということになる。フロイト自身は後者の方の考え方をしているのであるから、その彼がベルネームの著書を翻訳して推奨するのもおかしな感じであるが、催眠術を信じない第一のグループへの啓蒙という意味があるのであろう。
 催眠についての理解の仕方は、ヒステリーについての理解にも反映される。ベルネームの立場からは、ヒステリー症状はすべて診察する医師の暗示によって作り出されたものということになってしまう。フロイトの見解では、催眠術によっても医師が患者の症状を自由にすることはできないし、ヒステリー症状には暗示によって作り出すのは不可能な生理学的な要素が含まれているという。

 フロイトは、ベルネームが言葉の意味をはっきりさせないままに、すべてを暗示に還元している点を批判している。

そもそも「暗示」とはなにか、これは追求するに値する問いである。たしかにそれは心的な働きかけの一種ではある。これは、ほかの種類の心的な働きかけであるところの、命令、伝達、忠告などとは以下の点において異なっていることを言いたいと思う。つまり暗示においては、なにか二つ目の脳のなかで、その由来が吟味されることなく、あたかもそれが自生的にその脳のなかに生じたかのごとく受け取られるような表象が呼び覚まされる。(1-176)


 この「二つ目の脳のなかで」という表現が、後の無意識的な心的過程の理論を、まさに暗示しているようであり、大変興味深い。
 さらに、フロイトは暗示を直接暗示と間接暗示に分け、間接暗示の方は「暗示というよりむしろ自己暗示のための刺激である」と述べている。自己暗示は、生理学的な現象であると同時に心的な現象でもあり、それが自生的なヒステリーの症状を作り出す。

 入眠についての考え方もおもしろい。目を閉じることは、それが睡眠と強く結びついた随伴現象であるが故に、自己暗示によって睡眠へと導くのだという。
H21.11.9

テーマ:本の紹介 - ジャンル:本・雑誌

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