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器質性運動麻痺とヒステリー性運動麻痺の比較研究のための二、三の考察

器質性運動麻痺とヒステリー性運動麻痺の比較研究のための二、三の考察(立木康介 訳 2009)
Quelques considérations pour une étude comparative des paralysies motrices organiqus et hystériques (1893)

 本論文は、フロイトのヒステリー研究において特別な意味を持つものであったと思われる。
 「器質性運動麻痺とヒステリー性運動麻痺の比較」というテーマは、フロイトがパリのサルペトリエールに留学した際に師シャルコーから与えられていたものだった。フロイトは1888年頃には、論文の大半を書き終えていたらしい。しかし、このフランス語の論文をシャルコーが『神経学アーカイヴ』に掲載したのは、1893年の7月、その突然の死のわずか2週間前のことであったという。
 およそ5年間の遅延の理由について、解題の兼本浩祐氏は次のように推測している。

本論文の最初の三節は全くの神経学的著作であり、1886年から遅くとも1888年には完成している。これに対して四節は、「暫定報告」が引用されるとともに、抑圧、浄化反応、恒常性原理などの新たな概念が萌芽的な形で現れている。フロイトがこれらの概念を直接取り扱い始めていたため、それらの概念が自身の中で熟成するのを待って出版を延ばしていた可能性も考えられなくない。

 フロイト自身が「偶発的で個人的な理由」とだけしか述べていないのをいろいろ詮索するべきではないのかもしれない。が、私としては「自身の中で熟成するのを待って」というよりも、さらに踏み込んだ推測をしてみたくなる。
 ひとつには、フロイトの著作を順に読んでいくと、彼がアイデアを出し惜しみすることはあまりなかったと思われるのだ。ヒステリーについての理論も、『ヒステリー研究』発表の前から既にいろいろな所で書いたり話したりしている。
 確かに、四節で展開されるヒステリー症状形成の仮説はシャルコーが敷いた路線から心理学の方向に大きく踏み出している。しかしその内容は、フロイトにとってはすでに目新しいものでもなかった。
 そうはいうものの、それをフランス語の論文で師に直接ぶつけていくことには、やはり少々抵抗があったのかもしれない。かといって、三節までの神経学的考察部分だけを提出することにも納得がいかない。そういうジレンマに、彼自身悩んでいたのではなかろうか。

 それはともかく、四節の心理学的考察では、ヒステリー性の腕の麻痺を例に、「自我」という概念を引き合いに出して論をすすめている。

心理学的に考察した場合、腕の麻痺は、腕の表象が自我を構成する他の諸概念と連想関係をもつことができない、ということのうちに存する。いま「自我」と述べたが、個人の身体はその大きな一部分を形づくっている。損傷とはそれゆえ、腕の表象が他の観念と連想関係をもつ可能性の廃棄ということになろう。(1-373)

 ここの所は、「自我とはとりわけ身体的自我である」という後期の理論を彷彿とさせる。あるいは後期著作のかの言及は、ここに起源があるというべきか。
 大脳皮質の損傷による器質性の麻痺では、損傷部分に対応した運動神経支配領域が麻痺に陥る。皮質運動野には、そのような身体支配領域の図式を描くことができる。ヒステリー性麻痺で問題になる身体表象とは、いわば観念レベルにおける身体図式と言えるだろう。
 ヒステリー性麻痺において、腕の表象が他の観念との連想関係を絶たれる理由は、それが別のもっと大切な観念と結びつくから、ということらしい。

というのも、ヒステリー性麻痺のすべてのケースにおいて、麻痺した器官や廃棄された機能は、大きな情動的価値を携えた下意識の連想にはめ込まれていることが判明するのであり、この情動的価値が消去されるやいなや腕が自由になることを示すことができるからである。(1-375)

 このことを説明するのに、フロイトは3つの示唆に富む比喩をあげている。君主と触れた手を洗おうとしなくなった臣下の笑い話。新郎新婦のために乾杯したグラスを割るという風習。太古の未開部族が、族長の亡骸と共に、生前に使用した物や妻たちまでも葬り去ったこと。つまり、聖なるものと関わりをもったものは、別の用途に用いられることを禁じられるということであろう。

H22.1.28

テーマ:書評 - ジャンル:本・雑誌

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