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「不思議のメモ帳」についての覚え書き

「不思議のメモ帳」についての覚え書き(太寿堂真 訳 2007)
Notiz über den "Wunderblock" (1925)


 意識と記憶の問題について考察した、小さいけれども重要な論文である。「快原理の彼岸」で提示された「意識は想い出-痕跡の代わりに出現する」という命題に関連した論述がなされている。
 これについては、「快原理の彼岸」についての記事でも触れたし、「フロイト研究会」のセミナーでも書いたことがある。

 表題になっている「不思議のメモ帳(Wunderblock)」とは、当時売り出されていた、書いたり消したり出来る記録板のようなもので、解題によると1960年代のイギリスでは”Printator”という商標で入手可能であったとのこと。
 私も、小さい頃(30年数年ほど前?)に、類似の物があったのを覚えている。今では、もっと便利なものがいろいろでてきたためか商品としては見なくなったが、子供用教材の付録で似たようなしくみのものを見たことがある。


脳を例えてみれば

 脳における記憶のしくみはどうなっているのか。これは実にむずかしい問題だ。こういうことを考えるのに、身体器官を人間の考案した道具に例えて比較するというのは、ありがちな思考法ではある。

 フロイトは、まずメモ帳や石版を例に出し、しかしそれよりもよい比喩として「不思議のメモ帳」をあげた。
 今であれば、記憶システムはコンピュータのメモリに例えられそうだ。気まぐれな検索システムを備えたデータベースソフトといったものを想像すれば、外見上は脳と同じような働きをしそうである。しかし、コンピュータのメモリーと脳のニューロンでは、根本的なところでも違いがあるのではないかという気がする。

 コンピュータの場合は、一つのデータは特定の場所に記録され、重ね書きをすれば前のデータは消えてしまう。メモリにはデータを記録できる容量の限界がある。たくさん記録したければ、最初に大きな容量のメモリを用意しておかなくてはならない。
 脳の場合にはどうなっているのか。例えば赤ちゃんは空のメモリをたくさん携えて生まれてきて、いろいろ覚えていくにつれて空容量が減っていき、年をとるともうこれ以上覚えられなくなるのか。
 それにしても、われわれの脳に記録されているデータの量というのは莫大なものになりそうだ。あるいは、そこはうまく圧縮されて、実際はみかけ程の量ではないのか。考えれば考えるほど、どうなっているのか不思議である。

 この件については、不思議のメモ帳の方が、コンピュータよりも脳に近いのではないかと思う。これは、フロイトが指摘している点とは別のことなのであるが。
 不思議のメモ帳では、永続的な痕跡はカバーシートの下のワックス版に、筆記具でつけた窪みとして残る。そして、それは書いたり消したりするごとに、重ね書きされるのである。最初のうちは、この窪みは読み取りやすいだろうが、重なりが多くなると、とくに前に書いたものほど読み取りにくくなる。しかし、強い筆圧で書いたものは例外的に時間がたっても残るであろう。

 脳における想い出痕跡も、このように重ね書きがなされているのではなかろうか。その点で、コンピュータのメモリより、不思議のメモ帳に近いのではないかと想像するのである。


知覚のしくみ

 不思議のメモ帳では、カバーシートが知覚-意識系に、ワックス版が想起系に対応する例えになっている。さらに、カバーシートは、外側のセルロイドシートと内側のパラフィン紙に分かれていて、前者が刺激保護、後者が刺激受容の役割をする。

 大事なことは、刺激受容が想起系との共同作業によってなされるということだ。不思議のメモ帳で、書いたものが浮き出るのは、筆圧によってパラフィン紙とワックス版が密着し、その部分が他よりも黒く見えるからである。

 つまり、知覚というのは外から来る刺激と、内からの興奮が出会うということなのである。この、知覚というと外から受容するという方向ばかりが目立つけれども、実は内側からある種の刺激を期待して迎えにいくという能動性が大事なのだと思う。
2007.12.21

テーマ:書評 - ジャンル:本・雑誌

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