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2020-04

グラディーヴァ

グラディーヴァ・妄想と夢グラディーヴァ・妄想と夢
(1996/08)
ヴィルヘルム イェンゼン、ジークムント フロイト 他

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★★★★

 本書は、ヴィルヘルム・イェンゼン著の「グラディーヴァ――あるポンペイの幻想小説」とジクムント・フロイト「『グラディーヴァ』における妄想と夢」の二作品を、種村季弘氏の翻訳と解説で一冊の単行本におさめている。
 私の持っているものは、1996年発行の初版第一刷である。アマゾンで見ると、現在は中古本でしか手に入らないようだ。おそらく、あまり売れなかったのだろう。すばらしい企画なのに残念なことだ。

 イェンゼン(1837~1911)は、百以上の作品を書いた小説家とのことだが、今日ではほとんど読まれることがなく、この「グラディーヴァ」だけが、例外的に各国語に翻訳されて読み続けられているという。その理由は、もちろんこの小説をフロイトが分析して話題になったからだが、実は作品そのものもなかなかすばらしいのだ。

 とても面白いので、是非とも皆さんにも読んでいただきたいものだ。その場合、例によってここから先は多少ともネタバレ的になるのでご注意を。

 主人公のノベルト・ハーノルトは、若き考古学者であるが、女性などには興味を抱かずに研究に専念している。しかし、彼はある時ローマの美術館で見つけた古代のレリーフに心を奪われる。それは若く美しい女性が歩いている像であった。ハーノルトは、レプリカを自分の書斎に置いて毎日眺め、その女性に「グラディーヴァ(歩み行く女)」と名前をつけて、彼女についての空想をめぐらせる。ある日、ハーノルトはグラディーヴァがポンペイにいて、有名な火山の爆発の中で灰に埋もれていく場面を夢で見た。起き上がったハーノルトは旅に出る決意をし、ローマをすぎてポンペイにたどりついたのであった。そこで彼が見たものは‥‥。

 ストーリーは主人公ハーノルトの視点から語られるが、空想と現実の境界がだんだんぼやけてきて、主人公の思考も明らかに不合理なものになってくる。読者は、ハーノルトが精神的に病理的な状態にあることに気づくのである。
 この小説ではしかし、主人公の妄想がふくらんでわけのわからないまま、読者を煙に巻いて終わってしまうのではなかった。私は、後半ではそういったことを少し心配していたのだが、最後の数ページで作者はすべてを明るみに出して説明してくれた。それもハッピーエンドで。結末を知ってしまえば、それまでのいろいろな不可解さも「なるほどそういうことだったのか」と合点がいく。非常に後味すっきりで、よくできた作品であった。

 フロイトの解説ももちろんすばらしく、小説の面白さを倍増させるものであるが、詳しくは「読む」の方のブログで近々書くことになるだろう。
 舞台となるポンペイについての地図が巻末に掲載されているのは、大変ありがたく役に立った。こういった細かいところにも、翻訳者の種村季弘氏の思いが表れており、全体としてすばらしい本になっている。もっと売れてもいいのになあと、つくづく思う。

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